かつて、世間を震撼させた村上ファンドの代表、村上世彰氏。
ニッポン放送や阪神電鉄の株取得は、当時、日本全体に旋風を巻き起こしました。
後に、インサイダー取引で逮捕されてしまい、ネガティブなイメージが付きまとう、村上世彰氏。
「モノ言う株主」という単語が独り歩きし、「村上ファンド」という言葉に良いイメージを持てない方も多いのではないでしょうか。
一方で、投資家として膨大なお金を稼いだ、成功した投資家です。
そして、村上世彰の考え・哲学に対して、評価している投資家も多数存在します。
この記事では、村上世彰氏の投資手法や略歴について解説していきます。
村上世彰氏の略歴

官僚になる
村上世彰氏は1959年に大阪府で生まれました。
日本でもトップレベルの灘中学校・灘高校を経て、東大法学部に入学します。
東大を卒業後は通産省(現在の経済産業省)に入省します。
そして、約16年もの間、国家公務員として勤務しました。
村上氏は、コーポレート・ガバナンスの浸透と徹底の必要性を感じていました。
それが日本経済の発展に繋がっていくという考えを持ち、高級官僚として働いていました。
投資家になる
ですが、官僚としての立場から日本市場を変えていくことに限界を感じます。
1999年、40代で官僚を辞めて、投資家になることを選びます。
制度を決める側ではなく、1プレイヤーとして、自分の思いを実現させていくことを決意します。
ライブドアやニッポン放送、阪神電鉄などの買収に携り、一躍脚光を浴びたのは2005年。
フジテレビがニッポン放送の子会社になっているという、誰がどう見てもいびつな構造に目をつけた、ライブドアによる敵対的買収の試み。
これは、歴史に名を残す大事件として知られていますね。
逮捕される
ライブドアから情報を得て、ニッポン放送株を買っていたという疑惑が浮かびます。
そして、インサイダー取引により逮捕されます。
2011年には、懲役2年・執行猶予3年の刑が確定します。
投資を再開する
村上世彰氏は、その後シンガポールに移住し、ファンドマネージャーを引退しました。
しかし、2013年頃には、再び表舞台に登場。
村上世彰氏の個人資産の運用会社という名目で、C&I Holdingsという投資会社を設立しました。
投資先の黒田電気に対して、臨時株主総会招集の請求を行うなど、物言う株主として徐々に復帰を果たしています。
村上世彰氏の復帰は、週刊誌でも話題になりました。
しかし、再び相場操縦容疑で、村上世彰氏と長女の自宅が強制捜査に入られてしまいます。
疑いは晴れたものの、度重なるストレスが原因で妊娠中の長女の子どもが死産したことから、村上世彰氏は表舞台に出て自分の考えをきちんと伝えることを決意しました。
現在は、投資活動の他、慈善事業や高校生に投資を教えるなどの様々な活動をしています。
2019年には、角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校投資部の特別顧問に就任しました。
元村上ファンド系
2020年代に入っても、村上世彰氏や親族、元社員と関係がある「元村上ファンド系」の投資会社が、世間を騒がし続けています。
「村上ファンド」の理念または投資姿勢、人材などが受け継がれているようです。
村上世彰氏が直接的または間接的に関与しているケースも少なくないでしょう。
これらの投資会社は、株価に大きな影響を与えることで、今なお、大きく注目されています。
村上世彰氏の投資手法と実績
村上世彰氏は、著書「生涯投資家」の中で以下のように語っています。
「私の投資は徹底したバリュー投資であり、保有している資産に比して時価総額が低い企業に投資する、という極めてシンプルなものだ。」
村上世彰氏の投資手法のキーワードとなるのは、「期待値」「IRR」「リスク査定」 の3つがあります。
「期待値」の高い商品へ投資
割安に評価されていて、リスク度合いに比して高い利益が見込める、「期待値」の高い商品に投資します。
村上世彰氏は、自分独自の期待値を設定しており、この期待値が1.0を超えたものにのみ投資をすると決めているそうです。
ちなみに宝くじは「0.3」、公営ギャンブルは「0.75」、カジノは「0.9」です。
そのため、これらには手を出しません。
IRRが15%以上
IRR(内部収益率)が15%以上であることも重要としています。
IRRとは、投資に対するリターンを表す指標です。
将来得られると考えるキャッシュフローの現在価値と、投資額の現在の価値が等しくなる、割引率を指します。
例えば、1年後の110万円の価値(将来得られると考えるキャッシュフロー)に対して、現在の投資額が100万円(投資額の現在の価値)のとき、「割引率」は年利10%になります。
村上世彰氏は、資金循環がお金を生み出す原動力と考えています。
その資金循環を期待できる案件に投資をしていくという考えによるものです。
リスク査定
リスク査定とは、リスクを分析することです。
数字や指標よりも、経営者やビジネスパートナーの性格や特徴を把握します。
経営者やビジネスパートナーが、逆境に立った時に冷静な議論ができる相手かどうかを、深堀りして人となりを判断します。
経営者も人です。
人は逆境に弱いものです。
企業の経営者の中には、大きな変化が起きたとき、立場をころりと変えてしまうことがあります。
逆境が起きたときには、ずっと立ち直れない会社も多数あります。
投資で利益を得るには、経営者の考えや性格が、とても重要であることがわかります。
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投資の格言
村上世彰氏の哲学にも通じる投資の格言を紹介します。
まずは現状における「期待値」を導き出し、その「期待値」を少しでも上げるために、外部要因や将来予測などを冷静に見極めながら、様々な戦略を立てていくのである。
出典:村上世彰「生涯投資家」ある。私は、資金循環こそが将来のお金を生み出す原動力だと信じている。
国の経済においてもそうだし、企業においても、資金循環は成長する上で非常に重要だ。
出典:村上世彰「生涯投資家」日本企業の改革には、株主からのガバナンスが必要なのだ。
「物言う」ことも、投資家の大切な責務であると私は考えている。
出典:村上世彰「生涯投資家」投資家として大事なことは、失敗したと気が付いた時いかに素早く思い切った損切りができるか。
下がり始めたら売る決断をいかに速やかにできるか、ということだ。
出典:村上世彰「生涯投資家」
村上世彰氏を詳しく知る方法
村上世彰氏について、更に深く知るための書籍を紹介します。
村上世彰、高校生に投資を教える。
村上氏が高校生44名に対して資金を提供して、8ヵ月間もの間、投資の経験を積ませました。
その間、村上氏は「投資のタイミング」、「投資家に求められる条件」、「お金の本質」などを教えました。
この本は、それらの投資のエッセンスが記述された書籍です。

生涯投資家
村上氏の初の著作であり、半生記と投資理念が綴られている書籍です。
官僚の村上氏が「なぜ投資ファンドを設立したのか」、「何を成し遂げたかったのか」が語られます。
そして、どのような投資手法や投資哲学を持っていたのかも記述されています。

まとめ
「モノいう株主」という言葉で有名ではありますが、投資家として、期待値・IRR・リスク査定によって、投資判断をしていたということがわかりました。
そして、世間に名を馳せた村上世彰氏も、いまや人生後半。
N高等学校の「投資部」特別顧問に就任し、実際に高校生に資金を渡して運用させるなど、面白い実験をしています。
かつて、村上世彰氏自身が父に受けた教育と同じように、後進の子どもたちに投資を伝えたいと考えているのでしょう。
自身の娘もファンドマネジャーとして活躍しています。
村上世彰氏は、投資家だけでなく教育者としての才能もあるのではないでしょうか。
実際、著書「いま君に伝えたいお金の話」でも、子どもに対する教育方法が語られています。
そして、2020年代に入っても、旧村上ファンド系の投資会社は、世間を騒がし続けています。
その行動や思想は賛否両論です。
今後を含め、旧村上ファンド系の投資会社がどのように動くのか、その動向が注目されています。
参考資料
・村上世彰「生涯投資家」文春文庫
・村上世彰「高校生に投資を教える」角川書店
・村上世彰「いま君に伝えたいお金の話」幻冬舎文庫